中西 康剛
神戸大学理学部数学科
構造数理講座 教授
結び目理論教育研究分野
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研究テーマ:

局所的変形による結び目の研究

結び目は、文化人類学の対象になるほどに古くから、 また、身近なものとして扱われてきました。 例えば、「あやとり」などもそのひとつで、 世界各地での多様な「あやとり」文化の発展があります。

ただ、こうした「あやとり」でどのように複雑な図形を作っても、 解けてしまうのは経験上わかっています。 でも、比較的単純なものでも、解けないものもあります。

個人的には、幼稚園や小学校に通っていた頃、 蝶結びで困っていたことを思い出します。 その頃は、マジックテープなどもなく、 靴紐をいつも蝶結びにするのですが、 同じようにしているつもりなのに、 なぜか、縦結びになっておかしいなぁ、とつくづく思ったものです。

こうした経験上わかっているようなことでも、なぜか、 と尋ねられたらどうしますか。 こうした問にも数学的に答えられるようにしたのが、 数学の一分野としての「結び目理論」です。

結び目理論は、研究の方法で分類されたわけではなく、 結び目という身近な対象によって規定された分野ですので、 数学に留まらず、 統計物理学・高分子化学・遺伝子学などでも幅広く研究されています。 その研究の基盤は、 トポロジー(位相幾何学)の観点からの研究によるものが大きいです。

結び目という素朴な対象には、驚く程に豊かな構造が隠されており、 現代のトポロジーをもってしても、 その豊かな構造のすべてを描き出すまでには残念ながら至っておりません。

例えば、三葉結び目(日本では、かたむすび) が何故解けないのかを記述できるようになったのもこの百年ほどのことです。

先に、結び目には豊かな構造が隠されていると書きましたが、 代数的な、位相的な、幾何的な、また、 解析的な構造にどのようにアプローチしていくかに、 結び目理論の研究者の特徴が現われます。

私は、局所的な変形の積み重ねにより、どのような構造が保たれ、 あるいは、破壊されるのかを研究しています。


何ができたのか:

1) 結び目や(結び目がいくつか集まった)絡み目の図で、 交差の上下をいくつか入れ換えると解けてしまうことから、 この局所的な変形は、いくつの成分からなるのかという (単純ではあるけれども)構造と対応していると考えれます。 絡み目でそのうちのふたつの結び目に注目すると、 絡み数というどの様に絡んでいるのかの度合を示すものが定義できますが、 ここで、次の図のような変形を考えると、 この絡み数という構造と対応しています。 その他にも、色々な構造と対応する局所的な変形を発見しています。

2) 結び目は上の変形を何回かおこなうと解けるのですが、 最小限何回で解けるのかという回数の評価に取り組み、 トーラス結び目などでは決定しています。

3) 結び目が解けているのかどうかは、一般に、 その全体像を見ないと判断できないのですが、 タングルとよぶ概念を導入することにより、 結び目の一部にある性質をもつタングルが現われると解けないとわかります。 素とか、非分離性とか、単純性などについても判定が可能になります。


これから何をやろうとしているのか:

1) 結び目や絡み目の幾何的な構造について、 対応する局所的な変形を発見していくこと。

2) 結び目を解くには何回必要かという回数の評価を多くの結び目について行うこと。

3) 結び目を高次元で考えることができますが、 高次元結び目でも局所的な変形から構造の解析を行うこと。


最近の発表論文
  1. Y. Nakanishi and Y. Ohyama: Knots with given finite type invariants and Conway polynomials, Journal of Knot Theory and Its Ramifications, Vol. 15, No. 2 (February 2006), 205--215. pdfunder construction
  2. Y. Nakanishi, T. Shibuya, and A. Yasuhara: Self-Delta equivalence of cobordant links, to appear in Proceedings of American Mathematical Society. ps
  3. Y. Nakanishi: A note on unknotting number, II, Journal of Knot Theory and Its Ramifications, Vol. 14, No. 1 (February 2005), 3--8. ps, pdf
  4. Y. Nakanishi and Y. Ohyama: Delta link homotopy for two component links, III, Journal of Mathematical Society of Japan, 55-3 (2003, JULY), 641--654. ps
  5. Y. Nakanishi and Y. Ohyama: Delta link homotopy for two component links, II, Journal of Knot Thory and Its Ramifications, Vol. 11 (2002), 353--362. ps.gz
  6. Y. Nakanishi and K. Nishizawa: On two dimensional knnots with reciprocal polynomials, Journal of Knot Thory and Its Ramifications, Vol. 10 no. 6 (2001), 841-850.
  7. Y. Nakanishi and M. Yamada: On Turk's Head Knots, Kobe J. Math. Vol. 17 no. 2 (2000), 119-130.
  8. Y. Nakanishi: Delta link homotopy for two component links, preprint (1999), to appear in Topology its Appl. (Proceedings of Mexico-Japan first joint meeting for Topology and its Appl.)
  9. Y. Nakanishi and T. Shibuya: Link homotopy and quasi self Delta-equivalence for links, Journal of Knot Theory and Its Ramifications Vol. 9 No. 5 (2000), 683-691.
  10. Y. Nakanishi and T. Shibuya: Relations among self Delta-equivalence and self Sharp-equivalences for links, in Series on Knots and Everything vol. 24: Knots in Hellas '98, Proceedings of the International Conference on Knot Theory and Its Ramifications, Editors: C. McA. Gordon, V. F. R. Jones, L. H. Kauffman, S. Lambropoulou, and J. H. Przytycki, World Sci. Publ., Singapore, 2000, 353-360.
  11. Delta-unknotting number for knots, K. Nakamura, Y. Nakanishi, and Y. Uchida, J. Knot Theory Ramif., 7(5) (1998), 639 -- 650.
  12. Alexander invariants and twisting operation, Y. Nakanishi, Proc. Knots 96, Editor: S. Suzuki, World Sci. Publ. Co., 1997, 327 -- 335.
  13. Unknotting number and knot diagram, Y. Nakanishi, Revista Matem{\'a}tica, 9(2) (1996), 359 -- 366.
  14. Union and tangle, Y. Nakanishi, Proc. Amer. Math. Soc., 124(5) (1996), 1625 -- 1631.
  15. Alexander polynomials of two bridged knots, Y. Nakanishi and M. Suketa, J. Australian Math. Soc. Ser. A, 60 (1996), 334 -- 342.

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