高野 恭一
神戸大学理学部数学科
解析数理講座 教授
関数方程式論教育研究分野
ホームページ E-mail: takano@math.kobe-u.ac.jp Tel: 078-803-5601

現在どのような研究をしているか:

特殊関数、とくにパンルヴェ関数について調べている。 パンルヴェ関数とは20世紀の始めにフランスの数学者 Painlev\'e と Gambier が見つけた6個のタイプの非線形常微分方程式の解の総称である。三角関数とか指数関数などの初等超越関数の他にガンマ関数、超幾何関数、 べッセル関数など有用な関数があり、 それらをまとめて特殊関数と言う。 19世紀の終わり頃主にフランスの解析学者の間に生まれた新しい特殊関数を見つけようという問題意識のもとに、 Painlev\'e と Gambier が新しい特殊関数を定める非線形微分方程式を6個見出したが、それらをパンルヴェ方程式と言い、その解をパンルヴェ関数と言うのである。

見かけは何の変哲も無くただ複雑な形をしているだけのこのパンルヴェ方程式が、 不思議なことに色々な良い数学的構造を持つことが分かって来た。 一般の非線形微分方程式ではなく、 この極めて特殊な方程式が持つ特別な状況を見出していくいわば現象論的な研究を行っている。


何を目指して研究しているか:

21世紀にはパンルヴェ関数が、既知の特殊関数のように、 色々なところで実際に有効に用いられることを夢見ている。 実用に耐えるには接続公式に相当するものが大事であると思う。 それにつながる研究をというつもりでやっている。


何が分かったか:

  1. パンルヴェ関数の特異点には、 初期条件に依存して位置が変わる動く特異点と、 動かない特異点といわれる方程式の特異点がある。 前者はすべて極である。動かない特異点において得られる情報が重要と考えて、 動かない特異点の近傍での解の表示式を求める試みをした。 一般論ではいつも仮定するポアンカレ条件が満たされないにもかかわらず、 表示式の収束が言える。 実は隠れたところでポアンカレ条件が満たされている。 これもパンルヴェ方程式が特別なものであることを示す状況証拠である。 ([1],[2],[3])

  2. 動かない特異点について調べてみて、 従属変数が動く空間を把握しておく必要を認めた。言い換えれば、 岡本の初期値空間の座標系を選ぶということである。調べた結果、 初期値空間にはうまい正準座標系がとれること、 パンルヴェ方程式がそれぞれの座標系で多項式ハミルトン関数の正準方程式で書けること、この空間上で定義される代数的正準方程式はパンルヴェ方程式しか無いことが分かった。最後の事実は、ある意味で初期値空間がパンルヴェ関数のことを何でも知っていることを示すもので、初期値空間の幾何が重要であることを教えられた。([4],[5])

  3. パンルヴェ方程式 6 個は孤立して存在しているのではなく、 第6パンルヴェ方程式から合流操作でその他が次々と得られることが知られている。 この合流操作が初期値空間のそれにまで整合的に延長出来ることを確かめた。 合流過程でのハミルトン関数も多項式である。([6])

  4. パンルヴェ関数の動く特異点が極であることは良く知られた重要な事実であるが、 その初等的、幾何的証明を試みた。補助関数をうまく選ぶと言うアイデアは Painlev\'e 自身のものである。 この試みの意義は初期値空間を知っていると、 証明の幾何的意味が明瞭になるところにある。([7])
  5. パンルヴェ方程式の初期値空間の座標系として、野海・山田の B\"acklund 変換 が定めるものを採れることを示した。これから直ちに、B\"acklund 変換で移り合う パンルヴェ方程式の初期値空間は同型であることが分かる。この座標系では各チャート でのハミルトン関数がパラメータの変換により得られるので、パンルヴェ方程式の 解析に便利であると期待される。([8])
  6. 各パンルヴェ方程式には B\"acklund 変換群といわれるものが付随している。 第 6 パンルヴェ方程式の B\"acklund 変換群から、その他の方程式の B\"acklund 変換群が、通常の退化操作によって、次々に得られることを示した。([9])

参考論文
  1. Takano,K., Reduction for Painlev\'e equations at the fixed singular points of the first kind, Funkcial. Ekvac., 29(1986), 99-119.
  2. Takano,K., Reduction for Painlev\'e equations at the fixed singular points of the second kind, J. Math. Soc. Japan, 42(1990), 423-443.
  3. Kimura,H.,Matumiya,A. and Takano,K., A normal form of Hamiltonian systems of several time variables with a regular singularity, J. Differential Equations, 127(1996), 337-364.
  4. Shioda,T. and Takano, K., On some Hamiltonian structures of Painlev\'e systems, I, Funkcial. Ekvac., 40(1997), 271-291.
  5. Matano, T., Matumiya, A. and Takano, K., On some Hamiltonian structures of Painlev\'e systems, II, J. Math. Soc. Japan, 51(1999), 843-866.
  6. Takano, K., Defining manifolds for Painlev\'e equations. "Toward the exact WKB analysis of differential equations, linear or non-linear" (Eds. C.J. Howls, T. Kawai, and Y. Takei), 261-269, Kyoto Univ. Press, Kyoto, 2000.
  7. Takano, K., Confluences of defining manifolds of Painlev\'e systems, Tohoku Math. J., 53(2001), 319-335.
  8. Noumi, M., Takano, K. and Yamada, Y., B\"acklund transformations and the manifolds of Painlev\'e systems, Funkcial. Ekvac., 45(2002), 237-258.
  9. Suzuki, M., Tahara, N. and Takano, K., Hierarchy of B\"acklund transformation groups of the Painlev\'e systems, J. Math. Soc. Japan, 56(2004), 1221-1232.