数学は図形、数および量を研究対象とする学問です。これらの研究対象は人間の抽象的認識と深く結びついていて、それため抽象性と論理性は学問としての数学の大きな特徴となっています。このことは、数学が自然科学やその他の科学で有効性を発揮する基本でもあります。
 しかし、数学者を研究に駆り立てるのは、抽象性と論理性を追い求めることではなく、他分野の研究と同様、数学的対象それ自身に対する強い探求心です。例えば、素数全体の集合、曲がった空間、物体の運動を記述する方程式、代数方程式で定義された解の集合といった数学的対象は、長い研究の歴史を持ち、多くの重要な理論を育んできました。しかも、科学研究の常として、研究の進展によってたえず新しい興味が生み出されています。また、近年の数理物理学と数学の密接な関係は、種々の数学的対象に新しい意味付けと関連性を与え、21 世紀における更なる発展の方向を示唆しています。
 数学の分野は、研究対象と研究方法の違いによって古典的には解析学、代数学、幾何学等に分類されてきました。しかし、現代の数学研究においては、個々の分野の内部のみに向かう研究では不十分で、分野の枠を超えた横断的な研究が必要となっています。これを踏まえて、神戸大学理学部数学科では、各教員の専門分野の違いに十分配慮し、教育研究の自主性・独立性を尊重しながらも、数学科全体が一つの研究室であるといった方向を志向し、教育研究体制の整備を進めています。
 数学は自然科学や一部の人文科学の言葉として存在するだけでなく、より本質的なレベルで種々の科学と係わってきました。物理学、計算機科学や経済学等と数学との関係から、真に新しい数学の理論が形成されてきた歴史もあります。このような観点から、狭い意味での数学という学問の枠組みにとらわれず、広い範囲の学問分野を視野に入れた教育研究を行う必要があると考えています。



 上記の理念のもとに、当数学科では数学を総合的な学問としてとらえ、学部学生に対して幅広く数学分野の教育を行い、また、計算・論理的思考・抽象的思考に十分習熟するよう訓練を行うことを目標とします。同時に、学生が数学における個々の対象の面白さや、それらの間の相互関係を体得できるカリキュラムが望ましいと考えています。また、個々の教員とセミナー形式で行う 4 年次の数学講究では、学生が現代の数学研究の一端に触れ、数学の豊かさ、美しさを味わうことを期待しています。
 自然科学や工学的技術における数学の重要性は言うまでもありませんが、抽象化や論理的推論の能力は、現代社会を支える高等教育全般において不可欠の要素です。その意味で、神戸大学の全学共通教育における数学教育の充実は、理系・文系を問わず重要な課題であると認識しています。理学部数学科は数学教育部会の中で他学部と連携・協力し、全学共通授業科目のカリキュラムの設定やその実施に対して責任を持ちます。また、大学での質の高い教育には高校までの数学の履修が必要であるという観点から、各学部各学科の学部入試に数学を課すことを推奨し、その出題・採点に対しても全面的な支援を行います。
 博士課程前期課程においては、セミナーと講義の両方を活用して、学生が自らの力で数学研究の出発点に到達できるように指導し、同時に、自分が理解したことを他者に対して説明し理解させる能力(いわゆる良い教育者としての能力)を身につけさせます。博士課程後期課程においては、独立した数学研究者および教育者として必要な能力を身につけさせることを目標とします。