代数曲線と離散Painleve方程式
最近の研究の一部
[nlin.SI/0303032]
から、さらにその一部についてできるだけ簡単な解説を試みます。
(なお説明にある図は、フリーハンドで描いた「落書」の
ように見えますが、計算により正確に作図したものです。)
もう少し詳しい解説はこちら[ps、pdf]
平面の2本の直線上(図[eps、
pdf]の赤線のどれでもよい)
に任意に6個の点をとり、これらを図のように結ぶと、
残りの3交点も一直線上に並びます。
これは、4世紀ごろのパップスという人の定理です。
約1300年後、パスカルが2次曲線の場合に拡張しました
[eps、pdf]。
2次曲線とは座標x、yの2次式の零点として表される図形で、
2次式が1次式(直線を表す)の積に分解する特別な場合として
パップスの定理を含みます。パスカルはまず『円に内接する
6角形の3つの対辺の交点は一直線上にある』(神秘6角形定理)
を証明し、円以外の場合は、アポロニウスの円錐曲線論
[eps、
pdf]を用いて、円を
斜めに見ることで解決しました。
パップスの定理は3つの直線(1+1+1)、
パスカルの定理は2次曲線と直線(2+1)に関する関係でしたが、
より一般に、3次曲線の場合が考えられ、『3次曲線の加法定理』
として知られています[eps、
pdf]。
この定理の主張は『3次曲線上の点に足し算が定義できる』
と簡潔に述べられます。 足し算(加法)は次のように定義します。
まず、与えられた3次曲線C上に任意の点Oを選び、
これを加法の「単位元」とします。
C上の2点P,Qに対してP,Qを通る直線(P=QのときはPを通る
接線)とCとの交点をP*Qと書きます。
このとき「和」をP+Q=O*(P*Q)、「逆元」を-P=O*Pと定義します。
定義から、-(-P)=P、P+O=P、P+Q=Q+Pなどは直ちに示されますが、
結合法則(Q+P)+R=Q+(P+R)は自明ではありません。
この結合法則も成立するというのが定理の意味です。
図で言えば、C上の4点O、P、Q、Rから-(P+Q)、
-(P+R)、P+Q、P+R、-(P+Q+R)を順次作図していったとき、最後の-(P+Q+R)
のところで、2直線とCとが一点で交わる、という主張です。
なお、3次曲線を楕円関数によってパラメータ表示した場合には、
この足し算は楕円関数の加法定理に他なりません。
上記の加法定理も古典的によく知られており、現代数学でも重要な役割
を果たしています(楕円暗号理論への応用もある)。その証明には
8点を通る3次曲線の族[eps、
pdf]
の性質『8点を共有する3次曲線は、これら8点から決まる
ある9番目の点も共有する』が使われます。
さて、これで準備は終わり、ようやく我々の研究結果の紹介です。
平面に10点(P1、、、P9、P0)を選びます。最初の9点と最後の一点は
多少役割が違います。これらの点を、ある規則Tで移動させます。規則Tは、
最初の9点から2点を選ぶごとに決まります(2点の順序にもより全部で
72通りある)。ここでは、
(P8,P9)を選んだ場合で説明しますが[eps、
pdf]、
他の場合も同様です。すなわち、
(1) P8、P9以外の9点は移動しない:T(P1)=P1、、、T(P7)=P7。
(2) P9は、8点P1、、、P8を通る3次曲線族から決まる9番目の点T(P9)へ移動。
(3) P8は、9点P1、、、P8、P9を通る3次曲線(青)上でP8+P9=T(P8)+T(P9)となる点T(P8)へ移動。
(4) P0は、9点P1、、、P8、P0を通る3次曲線(赤)上でP8+P0=T(P9)+T(P0)
となる点T(P0)へ移動。
以上です。
上記の変換Tは、楕円差分Painleve方程式というものの簡単な幾何学的記述を
与えています。この結果から、楕円差分Painleve方程式は楕円関数の加法定理の
『変形』であることが明白になり、特殊解の構成などに応用されました。
結果の副産物として、『2点(例ではP8,P9とした)の選び方を
いろいろに変えて得られる72通りの移動が互いに可換(順序を変えても
結果が同じ)である』ということが言えます。
いくつかの変換(操作)が非自明に可換である状況は『可積分系』の分野で
本質的に重要です。