関数方程式論 II ( 2単位)
Functional Equations II
担当教員 配当年次 開講学期
非常勤講師  宮川鉄朗 4 後期

授業のテーマと目標

統計流体力学への数学的アプローチ --- Navier--Stokes 方程式と乱流 --- : 我々の周辺に生起する流れはほとんどすべて乱流と呼ばれる性格のものである. 規模が大きく,スピードが速く,変化が激しく不規則で,流れを特徴付ける特定のパターンが見られない. また追試に関して不安定でもある.他方,理論的には我々の周囲の流れはすべて Navier--Stokes 方程式で記述されると信じられている.しかしながら, この方程式は非線形の偏微分方程式で,解の存在や一意性等の基礎理論に未解決問題 が残っている.また未知関数である流れの速度場は各時刻各点での値を指定して初めて 決定されるが,十分に発達した乱流のような不規則な流れでは各時刻各点での速度の計測など 不可能であり,従って Navier--Stokes 方程式の解である速度場が乱流に対応するものかどうか 判定することは事実上不可能である.そんな事情から,乱流の研究ではある種の物理量の 平均を計算することによってそれらの時空変化の偶然性の特徴を統計的に探らざるを得ない. このような統計的あるいは確率論的手法に基づく乱流の研究を「統計流体力学」という. 本講義では,古典力学の決定論的世界観から生まれた運動方程式である Navier--Stokes 方程式と上述の統計流体力学との接点を数学的に解明し, 理論的基礎が不明確な「乱流の統計的理論」を数学的に基礎付ける 試みについて解説する.この方面の研究は 1960 年代から徐々に 発展し,最近に至って有界領域の流れと(非有界の場合には)いわゆる一様等方乱流の場合に ある程度首肯し得る形をなすに至った.その発展は力学系理論の進展と抽象関数解析学に負う所が多く, いわゆる偏微分方程式論の発展に負う部分は少ない. しかし,二次元流と三次元流とで得られる結果の相違を知れば,結局のところ問題の 完全な解決は,三次元 Navier--Stokes 方程式の初期値問題の適切性にかかっている ことがわかる. 乱流の研究は流体力学の本道であり,乱流の本性の解明は古典物理学最後の未解決問題 とも言われている.その解決に寄与することが実は Navier-Stokes 方程式の 数学的理論の究極の目標なのだということを念頭におき,現代数理科学の 発展の(地味ではあるが)代表例のひとつとして本講義を鑑賞してほしいと願っている.
授業の内容と計画(予定)

履修上の注意


L2 -Sobolev 空間を含む Hilbert 空間の初等理論,特に完全連続自己共役作用素のスペクトルに関する Hilbert--Schmidt の理論を仮定する. また正値線形汎関数と測度(Radon 測度)の対応を保証する Riesz--Markov--Kakutani の定理を随所で用いる. 前者については関数解析の初等的教科書には必ず記載がある. 後者については例えば G. B. Folland: Real Analysis (Wiley-Interscience)あるいはW. Rudin : Real and Complex Analysis (McGraw-Hill) を参照のこと. その他の必要事項については講義中に適宜解説する.
成績評価方法

参考書

流れの数学的扱いに対する感覚を養い,かつ乱流理論の
主要な到達点である Kolmogorov の理論の概略を知るには
谷一郎: 流れ学(岩波全書)
が平易でわかりやすい.
その他



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