第14回(2015年度)解析学賞

受賞者

業績題目

杉本充(名古屋大学大学院多元数理科学研究科)

モデュレーション空間および分散型偏微分方程式の平滑化評価の調和解析的研究

竹村彰通(東京大学大学院情報理工学系研究科)

ホロノミック勾配法に関する研究

田中和永(早稲田大学理工学術院基幹理工学部)

非線型楕円型偏微分方程式の特異摂動問題に対する多重クラスター解の変分法的研究

【選考委員会構成】
相川弘明,青嶋誠,小川卓克,小澤徹(委員長),示野信一,白井朋之,望月拓郎(委員会担当理事),横田智巳


受賞者

竹村彰通(東京大学大学院情報理工学系研究科)

業績題目

ホロノミック勾配法に関する研究

受賞理由

竹村彰通氏は,統計的多変量解析についてこれまで多くの研究を行ってきた.近年は計算代数統計という新しい分野において,グレブナー基底に基づく計算代数手法の統計学への応用研究に著しい業績をあげてきた.特に,D 加群の理論に基づくホロノミック勾配法の提唱は,統計学における標本分布論の新たな手法として特筆すべきものである.
ホロノミック勾配法は,日比孝之氏をリーダーとする「現代の産業社会とグレブナー基底の調和」プロジェクトにおいて,サブリーダーの高山信毅氏を中心とするグループの研究を,竹村氏が統計学に応用することで生まれたもので,数学における分野融合的なプロジェクトの成果である.ホロノミック勾配法は,ホロノミック函数とよばれる函数のクラスに適用可能であり,函数の満たす微分方程式を数値計算に利用するものである.統計学で重要な正規分布を含む多くの確率密度函数や分布函数がホロノミック函数であり,統計学への応用範囲は広い.しかしながら,ホロノミック函数の概念が定義されたのは1990年のことで,統計学ではその概念自体,知られていなかった.他方,ホロノミック函数の背景にある D 加群の理論については,柏原正樹氏をはじめとする深い研究の蓄積があり,また D 加群の構成をグレブナー基底計算に帰着するアルゴリズムについては,大阿久俊則氏や高山氏による研究が進展していた.竹村氏は,これらの成果を統計学の諸問題に応用して,確率分布の基準化定数や領域確率の数値評価,最尤推定量の計算等に,微分方程式を用いた統一的な方法論を構築した.多くの適用例を与えて,数値的精度においても計算時間においても既存の手法を上回る性能が得られることを示した.竹村氏の業績は,統計学への一方向に留まらず,ホロノミック函数の特異点と微分方程式系の特異点との関係など,解析学における興味深い研究課題を提供している.
以上のように,ホロノミック勾配法という新たな研究分野を拓いた竹村彰通氏の業績は極めて独創的で解析学の手法を駆使したものであり,日本数学会解析学賞に誠に相応しいものである.