第14回(2015年度)解析学賞

受賞者

業績題目

杉本充(名古屋大学大学院多元数理科学研究科)

モデュレーション空間および分散型偏微分方程式の平滑化評価の調和解析的研究

竹村彰通(東京大学大学院情報理工学系研究科)

ホロノミック勾配法に関する研究

田中和永(早稲田大学理工学術院基幹理工学部)

非線型楕円型偏微分方程式の特異摂動問題に対する多重クラスター解の変分法的研究

【選考委員会構成】
相川弘明,青嶋誠,小川卓克,小澤徹(委員長),示野信一,白井朋之,望月拓郎(委員会担当理事),横田智巳


受賞者

田中和永(早稲田大学理工学術院基幹理工学部)

業績題目

非線型楕円型偏微分方程式の特異摂動問題に対する多重クラスター解の変分法的研究

受賞理由

田中和永氏は,変分法に基づいた非線型問題の研究に取り組み,対称型峠の補題による臨界値に対応する非線型楕円型方程式の無限個の解のモース指数による存在,特異ハミルトン系の周期問題,定常非線型シュレディンガー方程式の正値解の存在,最小エネルギー解の特徴付けなど,多岐にわたり優れた成果を挙げてきた.
特に,定常非線型シュレディンガー方程式の WKB 近似に代表される非線型楕円型方程式の特異摂動解の凝集,多重クラスター解(multi-cluster solution)の構造と,変分汎函数との大域解析学的・位相幾何学的関係を明らかにし,特異点理論を基礎として,特異摂動により生成される多重クラスター解と変分汎函数との関連を明らかにした業績は顕著である.定常非線型シュレディンガー方程式の特異極限の解は,方程式の持つ線型ポテンシャルの臨界点近傍で凝集し定数係数定常非線型スカラー場方程式の解に漸近することが知られていたが,田中氏は極めて一般的な枠組で凝集点と汎函数の構造をとらえ,特異極限の解に対する凝集の様子を詳細に分類する定理を示した.この方法論は,線型ポテンシャルの臨界点にまつわる,局所的にエネルギー汎函数の最小に向かう勾配流を巧みに操ることで汎函数の変型を具体的に構成して凝集解の存在を示すもので,従来の方法で必要とされていた極限方程式の解の一意性や非退化性などの様々な制約を取り除いた独創的な手法であると共に,変分法本来の直感的な方向性を備えているという点で極めて優れている.
田中氏はこれらの仕事を発展させて,ポテンシャル項の臨界点における位相幾何学的構造を反映した多重クラスター解の変分法的構成を行い,また非線型項にソボレフ臨界となる一階微分の自乗の項を含むような問題に特異摂動法を拡張して非線型楕円型偏微分方程式の解を構成するなど,興味深い成果を挙げている.
以上のように田中氏の研究は,変分法に対する深い洞察と斬新な発想に基づいており,その優れた業績は日本数学会解析学賞に誠に相応しいものである.