第6回(2007年度)解析学賞

受賞者

業績題目

会田茂樹(大阪大学大学院基礎工学研究科)

無限次元空間上の確率解析

菱田俊明(新潟大学自然科学系)

ナビエ・ストークス方程式における藤田・加藤理論の新展開

平井武(京都大学名誉教授)

無限対称群およびその環積の既約表現ならびに指標の研究

【選考委員会構成】
石井仁司(委員長),磯崎洋,川又雄二郎(委員会担当理事),小薗英雄,岡田正已,辻元,吉田朋広,吉田伸生


受賞者

会田茂樹(大阪大学大学院基礎工学研究科)

業績題目

無限次元空間上の確率解析

受賞理由

Riemann 多様体上のループ空間を典型例とする無限次元空間は,幾何学的構造のほかにブラウン運動から定まる Wiener 測度を持ち,幾何学,解析学,確率論,場の量子論などの多様な分野が関連する興味深い研究対象である.会田氏は特に確率解析の理論を足掛かりに無限次元空間の研究に精力的に取り組んできた.
氏の業績は多岐にわたるが,まず種々の解析的関係式の導出が挙げられる.L. Gross による Wiener 空間上の対数 Sobolev 不等式は解析に有効な道具として詳しく研究され,その後の無限次元空間における研究の雛型になっている.会田氏は Riemann 多様体上のループ空間において標準 Dirichlet 形式に関する既約性及びポテンシャル付き対数 Sobolev 不等式を証明し,この分野の研究に大きな影響を与えた.また,一般の Markov 半群に関する一様正値性の概念を一般化し,PoincaréSobolev 型不等式との関連を示すなど,無限次元空間における解析に有用な理論を構築した.更に,無限次元空間上の対称拡散過程の短時間漸近挙動の研究も多くの研究者の興味を引いた特筆すべき業績である.
近年,会田氏は無限次元空間における準古典近似の問題に取り組み顕著な成果を挙げている.有限次元の場合に比べ,無限次元特有の障害がこの問題には生じる.氏はこれまでに培ってきた解析的不等式の証明のテクニックに加え,T. Lyons によるラフパス解析の理論を無限次元空間に援用することで困難を克服し,有限次元の場合の類推に厳密な証明を与えた.更に無限次元空間上の微分形式に作用する Witten Laplacian を考察して準古典近似の問題を論じるなど,新たな研究分野を拓くような研究を次々に発表した.
以上のように,会田氏の研究は無限次元空間における確率解析の発展に大きく貢献しており,同氏の業績は解析学賞にふさわしい.