第6回(2007年度)解析学賞

受賞者

業績題目

会田茂樹(大阪大学大学院基礎工学研究科)

無限次元空間上の確率解析

菱田俊明(新潟大学自然科学系)

ナビエ・ストークス方程式における藤田・加藤理論の新展開

平井武(京都大学名誉教授)

無限対称群およびその環積の既約表現ならびに指標の研究

【選考委員会構成】
石井仁司(委員長),磯崎洋,川又雄二郎(委員会担当理事),小薗英雄,岡田正已,辻元,吉田朋広,吉田伸生


受賞者

菱田俊明(新潟大学自然科学系)

業績題目

ナビエ・ストークス方程式における藤田・加藤理論の新展開

受賞理由

揚力が最大,抵抗が最小となる翼の形状の設計は流体力学における古典的な課題のひとつであるが,このような課題に数学的に答えるためには,境界をもった領域でナビエ・ストークス方程式を考察することが要請される.菱田氏は,このような境界値問題として,半空間にスリットを開けたような aperture 領域においてナビエ・ストークス方程式を考察し,その時間大域的な古典解を初期データが $L^3$ において小さい場合に構成した.aperture 領域においては,線形ストークス方程式の一意可解性を考える上で,スリットを通り抜ける流量や圧力差の影響を考慮する必要があり,この結果は興味深いものである.
さらに菱田氏は回転する物体の外部における流体の解析に関して著しい業績を挙げている.回転座標系においてはコリオリ力を考慮することになり,回転する物体の外部における流体の場合の線形化作用素の解析は複雑で困難なものである.実際,菱田氏は回転の影響を考慮した線形化作用素が,$L^2$ において正則半群を生成しないことを証明してみせた.一方で,この線形化作用素がある種の平滑化効果を持つことを証明し,藤田・加藤による著名な結果と同様に,$H^{1/2}$ に属する初期データに対して時間局所的一意解の存在を示した.時間大域的古典解の存在については,定常解の存在が鍵となる.菱田氏は,FarwigMuller 両氏との共同研究において,Littlewood-Paley の2進分解関数族,square 関数などを駆使して $L^p$ 評価式を確立した.実関数論的手法によって,このような対称性を持たない方程式に対する解の2階偏導関数の $L^p$ 評価式の導出に成功したことは,菱田氏の非線形偏微分方程式と調和解析学の双方に亘る深い洞察力によるものといえる.更にその応用として,Farwig 氏と共に,定常ナビエ・ストークス方程式に関して,実補間空間論を駆使し,回転角速度が小さい場合に解の一意存在を証明した.
このように,菱田氏はナビエ・ストークス方程式の外部問題に対して多くの素晴らしい研究成果を挙げ,この分野の発展に大きく貢献している.同氏の研究業績は解析学賞にふさわしいものである.