ヒルベルト空間上の有界線形作用素のつくる環の中で,共役をとる*演算について閉じていて,さらにノルム位相について閉じているものを $C^*$ 環,弱位相について閉じているものを von Neumann 環という.主にこの二つを合わせて作用素環という.泉氏はこの両者にわたって,その部分環の構造解析および準同型写像や群作用の研究を行ない,卓越した業績をあげた.
中心がスカラー作用素のみからなる von Neumann 環を因子環といい,これ以上環の直和に分解できない基本的な対象であるその部分因子環の構造の研究は,Jones による指数理論を契機におおいに発展した.それは作用素環におけるガロワ理論とでもいうべきもので,ガロワ群に対応するものは量子群よりさらに広い.泉氏は代数的場の理論に関係した Longo によるセクターを $III$ 型因子環や Cuntz 環上で巧妙に扱い,その fusion rule を解析して部分因子環の分類の深い結果を得るとともに,部分因子環の新しい構成法を見出した.また群−部分群の作る部分因子環の特徴づけを行ない,その同型問題を解決した.幸崎氏との共同研究では2次のコホモロジーの部分因子環版を考察するとともに,低次元有限次元 Kac 環(ある種の Hopf *環)の完全分類を行なった.泉氏は Longo と Popa との共同研究において,因子環のコンパクト群作用に関するガロワ対応の従来の研究では仮定されていた条件付期待値の存在が自動的に満たされることを示し,コンパクト群のガロワ対応の最終結果を確立した.さらにその対応をコンパクト Kac 環にまで拡張することに成功した.最近ではコンパクト量子群の無限テンソル積作用を解析し,その不動点環の相対可換子環を非可換なポアソン境界としてとらえる研究が興味深い.$C^*$ 環に対する研究でも,単純 $C^*$ 環上のセクター理論を構築して単純 $C^*$ 環の部分環の構造を解析したり,ある種の単純 $C^*$ 環上の Rohlin の性質を持つ有限群の作用を $K$ 理論を用いて分類するなど研究成果は著しい.
このように,作用素環理論の広い分野にわたって,斬新なアイデアと高度な技巧によって大きなインパクトをもたらした泉正己氏の研究は,解析学賞に相応しいものである. |