第2回(2003年度)解析学賞

受賞者

業績題目

泉正己(京都大学大学院理学研究科)

作用素環の部分環と群作用の研究

福島正俊(関西大学工学部)

ディリクレ形式とマルコフ過程の研究

宮嶋公夫(鹿児島大学理学部)

強擬凸 CR 構造と孤立特異点の変形理論

【選考委員会構成】
大春慎之介,織田孝幸(理事会推薦),川島秀一,重川一郎,竹村彰通,野口潤次郎(委員長),真島秀行,綿谷安男


受賞者

福島正俊(関西大学工学部)

業績題目

ディリクレ形式とマルコフ過程の研究

受賞理由

福島正俊氏は,マルコフ過程を研究対象として,ディリクレ形式理論を自在に活用し,多くの成果をあげてきた斯界における第一人者である.その成果は,著書「Dirichlet forms and Markov processes」に結実している.書中に展開された,氏自身の手による福島分解の理論は,マルコフ過程の汎関数解析に強力な手段を与え,以後の研究に与えた影響は計り知れない.この理論は,ディリクレ形式に適合するマルコフ過程の加法的汎関数に,マルチンゲールとエネルギー零の加法的汎関数との和への分解を与えるものである.それはまた半マルチンゲールの枠組みで定式化される伊藤の公式の一般化でもあり,応用に柔軟性と厚みとをもたらした.上記著書は,1994年に大島洋一氏,竹田雅好氏との共著の形で,その後の成果も取り入れ改訂版が出版され,研究者必携の書となっている.
福島氏の理論は,局所コンパクト可分距離空間上の正則ディリクレ形式をその議論の出発点としていたが,この精緻な理論を,無限次元空間に拡張することが種々試みられ,より一般な準正則ディリクレ形式が基本的であることが認識されるようになった.
そこで福島氏は原点に立ち返り,一般的なハウスドルフ空間を基礎空間として理論を再検討し,準正則ディリクレ空間は正則ディリクレ空間に準同相であることを見出し,福島分解が半マルチンゲール分解を与えるための必要十分条件をディリクレ形式に関する価式で与えた.さらにこの結果を利用し,無限次元空間において,有界変動関数の確率論的な特徴付けを与え,ユークリッド空間の部分集合がカチオッポリ集合であることを,その集合上の変形ブラウン運動で特徴付けた.
これら近年の福島氏の仕事は,準正則ディリクレ形式という一般化された正則概念が,旧来の正則ディリクレ形式と密接につながっていることを認識させ,この方向の抽象化の重要性を知らしめた画期的なものであり,解析学賞受賞に相応しいものである.