第3回(2004年度)解析学賞

受賞者

業績題目

赤平昌文(筑波大学数学系)

統計的推定の高次漸近理論

岩崎克則(九州大学大学院数理学研究院)

多面体調和関数とパンルベ方程式の研究

西田孝明(京都大学大学院理学研究科)

非線形偏微分方程式の解の大域構造の解析的研究

【選考委員会構成】
一瀬孝,小林良和,重川一郎,高木泉,竹村彰通,野口潤次郎(委員長),宮岡洋一(理事会推薦),望月清


受賞者

赤平昌文(筑波大学数学系)

業績題目

統計的推定の高次漸近理論

受賞理由

赤平昌文氏は統計数学の推測理論の分野において,特に統計的推定の高次漸近理論の構築や非正則推測論の確立等の顕著な業績を挙げてきた.
統計的推定の理論においては標本の大きさが無限大となる漸近理論が重要である.特に最尤推定量が漸近分散を最小にする意味で一次漸近有効であることは古くから知られていた.1970年代の後半から赤平氏は竹内啓氏と共同で,漸近展開の手法を用いた統計的推定の高次漸近理論に着手し,世界の他のグループと先を争う形で高次漸近理論を構築した.そして各種の正則条件が満たされる場合の高次漸近理論をほぼ完成することに成功した.その主要な結果は,

(1)

1次漸近有効推定量は2次漸近有効である.

(2)

中央値不偏となるように修正された補正最尤推定量は3次漸近有効である.

(3)

3次漸近有効推定量は4次漸近有効である.

これらの結果は,国際的にも注目を集めた甘利俊一氏らの高次漸近理論への情報幾何学的アプローチにも大きな影響を与えた.
さらに赤平氏は確率密度関数の微分可能性等の正則条件が満たされない場合における,統計的推測の高次漸近理論の手法を確立した.特に2つの1次漸近有効推定量を比較する基準として,同等の推定精度を得るための標本数の差に対応する欠損量の概念に注目した.そして両側指数分布等の非正則な分布における1次漸近有効推定量の標準欠損量を求めることに成功し欠損量の概念の有用性を示した.
これらの精緻な諸結果は解析学的手法を駆使したものであり,同氏の業績は解析学賞にふさわしい.