第3回(2004年度)解析学賞

受賞者

業績題目

赤平昌文(筑波大学数学系)

統計的推定の高次漸近理論

岩崎克則(九州大学大学院数理学研究院)

多面体調和関数とパンルベ方程式の研究

西田孝明(京都大学大学院理学研究科)

非線形偏微分方程式の解の大域構造の解析的研究

【選考委員会構成】
一瀬孝,小林良和,重川一郎,高木泉,竹村彰通,野口潤次郎(委員長),宮岡洋一(理事会推薦),望月清


受賞者

西田孝明(京都大学大学院理学研究科)

業績題目

非線形偏微分方程式の解の大域構造の解析的研究

受賞理由

西田孝明氏の最近の業績の特徴は,非線形偏微分方程式の解の大域構造の数学解析に,計算機援用証明の方法を本質的かつ本格的に用いたところにある.同氏は,80年代には既に様々な非線形偏微分方程式に関する数多くの業績を上げており,その名は世界的に認知されていたが,従来の多くの結果が,自明解や特殊解の周りからの小擾乱解についてのものであったことに満足せず,大振幅擾乱の解にも適用できる解析手法を模索していた.
転機は,80年代末に故山口昌哉氏との共同研究において,シナイとヴァルの1980年の論文に出会うことから訪れた.即ち,シナイとヴァルのアイデアを,ダフィン方程式等を例に含む常微分方程式系に具体的に適用すべく,方程式の近似の議論を工夫するとともに,吉原英明氏と区間演算による精度保証付きの数値計算プログラムを開発し,打ち切り誤差,丸め誤差等の評価と存在条件の検証を計算機内で実現し,様々な非自明周期軌道の存在を解析的に証明することに成功した.その後,非線形偏微分方程式系においても,その分岐現象の解析が常微分方程式の固有値問題に帰着できる場合に同様の議論を適用し,自明解からの定常分岐やホップ分岐の存在,臨界パラメータでの自明解の不安定化等について計算機支援による数学的証明を次々と成し遂げた.
21世紀に入っては,解の大域構造を解析すべく,九州大学の中尾充宏氏のグループと共同し,計算機で求めた近似解を与える毎に,シャウダーの不動点定理を適用できる近傍の構成を計算機内で実現することに成功した.これによって,自明解から大きく離れた解を含む様々な定常解の存在証明を計算機援用の下数学的に与えることが可能となった.これらの計算機援用の解析手法は,より詳しい大域構造の解析において将来の発展が大きく期待されるものであり,同氏の業績は解析学賞にふさわしい.