第3回(2004年度)解析学賞

受賞者

業績題目

赤平昌文(筑波大学数学系)

統計的推定の高次漸近理論

岩崎克則(九州大学大学院数理学研究院)

多面体調和関数とパンルベ方程式の研究

西田孝明(京都大学大学院理学研究科)

非線形偏微分方程式の解の大域構造の解析的研究

【選考委員会構成】
一瀬孝,小林良和,重川一郎,高木泉,竹村彰通,野口潤次郎(委員長),宮岡洋一(理事会推薦),望月清


受賞者

岩崎克則(九州大学大学院数理学研究院)

業績題目

多面体調和関数とパンルベ方程式の研究

受賞理由

岩崎克則氏は,解析学に端を発し代数学や幾何学と密接に関係する問題に対し,その問題の深い数学的構造を見出し,明示的公式として表現するという仕事を積み重ねている.特に,多面体調和函数とパンルベ方程式に関する研究において著しい成果を挙げてきた.
調和函数は平均値の性質をもつ,すなわち球面平均がその球面の中心における函数値と一致する連続函数として特徴づけられる.球面ではなく,与えられた多面体に関する平均値の性質をもつ連続函数を「多面体調和函数」と総称する.1962年にA.フリードマンとW.リットマンは多面体調和函数全体のなす空間は有限次元か,という基本問題を提出した.これに対し岩崎氏は,偏微分方程式論,多面体の組合せ論,群の不変式論などを用いて,肯定的な解答を与え,さらに次元公式を含む多面体調和函数の構造について多くの深い結果を導いた.
P.パンルベが見出した動く分岐点をもたない二階有理的常微分方程式に関する体系的研究は,我が国で盛んに行われ優れた結果が蓄積されてきた.岩崎氏は,近年その第 VI 方程式の非線形モノドロミーがモジュラー群の複素3次曲面への保測的な作用として書き下せることを示した.さらに,稲葉道明,齋藤政彦両氏と共同で,ベックルンド変換群のリーマン−ヒルベルト対応による特徴づけを与え,また相空間を安定放物型接続のモジュライ空間として構成することで,パンルベ第 VI 方程式の幾何学的基盤を整備し発展させた.岩崎氏の貢献は,第 VI 方程式の解の振る舞いの研究を,ある超越的なリーマン−ヒルベルト対応を経由して,簡単な2次元複素離散力学系の研究に帰着させたことである.この結果,方程式の特徴的な性質が自然にかつ正確に理解できるようになった.その意義は極めて大きく,同氏の業績は解析学賞にふさわしい.