Lévy 過程は時間的に一様な独立増分をもつ確率過程で Brown 運動や Poisson 過程を含み,マルコフ過程やセミマルチンゲールを構成する基礎となるクラスである.無限分解可能分布と関係し分布論的にも興味深く,Lévy 過程の解明は確率論における重要な課題の一つである.
佐藤氏はこの分野に長年取り組み多くの成果をあげてきた.1999年に Cambridge University Press から出版された著書「Lévy processes and infinitely divisible distributions」は,20世紀の Lévy 過程の研究を著者の研究領域を中心に集大成したものとして,確率統計学はもとより,数理ファイナンス,保険数学,統計物理やコンピューター科学にまで引用されており,関連分野の発展に大きく貢献している.
佐藤氏の最近の研究に関して,まずLévy 過程の確率積分およびそれに関係した研究があげられる.これはLévy 過程による広義確率積分の基礎的研究であり,積分の特性関数の表現を求め,広義確率積分可能な行列値関数のクラスと分布の領域の問題を解いた.また,佐藤氏は前島信氏とともに,無限分解可能分布の入れ子のサブクラスのうち,Jurek クラス,Goldie-Steutel-Bondesson クラス,Thorin クラス,一般化された G 型分布のクラス,自己分解可能分布のクラスのそれぞれのサブクラスの極限がすべて安定分布のクラスの合成積と弱収束の意味での閉包と一致することを示した.次に Ornstein-Uhlenbeck 型過程に関連する研究がある.一般化された Ornstein-Uhlenbeck 型過程の分布の性質は未開の分野であるが,佐藤氏は A.Lindner 氏とともに,Poisson 過程に関係する特別の場合について,その定常分布が無限分解可能になるための必要十分条件を見出し,また絶対連続性及び連続特異性を徹底的に調べた.これは Bernoulli 合成積とその類似物から生じるフラクタル的測度に関する Erdos,Peres,Solomyak,渡部俊朗などの研究を Lévy 過程の確率積分に関連づけた画期的成果であり,無限分解可能分布論におけるいくつかの病的現象がここでは自然に現れる.この他,非再帰的 Lévy 過程の非再帰性の程度に関する研究,錐に時径数をもつ Lévy 過程の研究も高く評価される.
このような佐藤健一氏の研究業績は解析学賞にふさわしいものである. |