第7回(2008年度)解析学賞

受賞者

業績題目

佐藤健一(名古屋大学名誉教授)

Lévy 過程と無限分解可能分布の研究

田村英男(岡山大学大学院自然科学研究科)

量子力学におけるスペクトル解析

林仲夫(大阪大学大学院理学研究科)

非線形分散型方程式の漸近解析

【選考委員会構成】
尾畑伸明,小薗英雄,児玉秋雄,柴田良弘(委員長),前島信,山口孝男(委員会担当理事),山崎昌男,吉田朋広


受賞者

林仲夫(大阪大学大学院理学研究科)

業績題目

非線形分散型方程式の漸近解析

受賞理由

最近,楕円型,放物型,双曲型という従来の分類に属さない分散型偏微分方程式が盛んに研究されている.分散型方程式とは時間について可逆であり,伝播速度が振動数に依存し,特に振動数が大きくなるにつれて限りなく大きくなる波動の伝播を記述するもので,数理物理学には重要な非線形分散型方程式が数多く現れる.次元や指数が特定の値を取るときには可積分系として取扱えるが,一般的な場合の研究には函数空間や不等式による評価が必要となる.この方面には国内外に多くの研究者がいるが,林氏は多くの業績を上げており,グループのリーダー的な存在である.
以下,林氏の業績のうち特に重要なものについて述べる.まず KdV 型方程式の最終値問題に対する修正波動作用素を構成した.この問題は,非線形項が未知関数の微分に依存し,共鳴項と非共鳴項を含むことによる困難があるが,林氏らは新たな近似解の構成方法を発見し有効に用いることによってこの困難を克服した.
次に非線形 Schrödinger 方程式について,線形方程式の解と非線形項が共鳴現象を起こす場合の解の漸近挙動は,まず小澤徹氏らによって研究されたが,林氏らはこの方程式に対する修正散乱作用素を構成し,最終的な解決を与えた.林氏らの方法は以前と異なり,非線形項の滑らかさが不要なので,より一般の方程式や高次元にも適用可能である.また非線形 Klein-Gordon 方程式は分散型方程式ではないが,非線形 Schrödinger 方程式の相対論版と見なせるので,非線形 Schrödinger 方程式についてと同様な結果が予想されていたが未解決であった.林氏らは新たな解の時間減衰評価を発見し,さらに解を光円錐の内外に分割して詳しく評価することによって,初期値に仮定されていたコンパクト台の仮定を取り除き,この問題を解決した.
このような林氏の一連の研究業績は解析学賞にふさわしいものである.