第8回(2009年度)解析学賞

受賞者

業績題目

西谷達雄(大阪大学大学院理学研究科)

双曲型偏微分方程式の初期値問題に関する適切性の研究

相川弘明(北海道大学大学院理学研究院)

複雑領域上のポテンシャル論の研究

小川卓克(東北大学大学院理学研究科)

実解析的手法による臨界型非線形偏微分方程式の研究

【選考委員会構成】
尾畑伸明,小磯深幸(委員会担当理事),小薗英雄,小谷眞一(委員長),柴田良弘,神保雅一,平地健吾,宮地晶彦


受賞者

小川卓克(東北大学大学院理学研究科)

業績題目

実解析的手法による臨界型非線形偏微分方程式の研究

受賞理由

小川氏は広汎な関数空間における様々な臨界型不等式を自らの手で導出し,それを非線形偏微分方程式の解法に応用するという研究で多くの成果を挙げている.例えば,臨界型 Sobolev 空間における Gagliardo-Nirenberg 型補間不等式と,それと同値な Trudinger-Moser 型不等式を最良定数とともに導出し,その応用として,複素係数を持つ Ginzburg-Landau 方程式の初期値境界値問題の弱解が一意的であることと,粘性係数がゼロになる極限で,非線形 Schrödinger 方程式のエネルギークラスの弱解に収束することを証明した.また,優臨界における Brezis-Gallouet-Wainger-Ozawa 型不等式を斉次 Triebel-Lizorkin 空間における不等式の系として導出した.応用として,球面上に値をとる2次元調和写像流の滑らかな時間局所解の延長可能性は,関数の平均振動ノルムの有界性によって支配されることを証明した.また,同ノルムによる弱解の正則性のための十分条件についても新たな指標を与えている.小川氏が提唱したこれらの関数空間は,スケール変換の観点からも臨界ケースを取り扱っている最適なものである.
調和解析学においては,Hardy 空間論自身の研究は現在では古典論となりつつあるように見えるが,非線形偏微分方程式の研究においては,未だその有用性は健在である.小川氏は2次元 drift-diffusion 方程式について,方程式のスケール変換則を不変にする初期条件の空間と,時間大域解存在の構成に有用な entropy 汎関数を両立させる関数空間として,Hardy 空間より広いある斉次 Besov 空間を導入し,Littlewood-Paley 分解と実補間空間論を駆使して,熱半群の端点評価式を確立した.応用として,2次元 drift-diffusion 方程式の初期条件が Hardy 空間に属するとき,その時間局所解,およびノルムが小さいときの時間大域解の一意存在を示した.この熱半群の端点評価式は,今後 Navier-Stokes 方程式等他の非線形偏微分方程式への応用についても期待できるものとして注目されている.
このように,小川氏は力強い実解析学の手法により,難解な非線形偏微分方程式の解法に対してスケール不変性に代表される臨界型に肉迫する多くの素晴らしい研究成果を挙げており,これらの業績は解析学賞に相応しいといえる.