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齋藤 政彦 |
神戸大学理学部数学科 | |
構造数理講座 教授 | |
代数幾何学教育研究分野 | |
ホームページ | E-mail: ![]() |
研究テーマ:
代数多様体の変形 およびモジュライ理論、周期写像、アーベル多様体、カラビ--ヤウ多様体と ミラー対称性
何を研究してきたか:
私は現在まで代数幾何学 を専攻して来ました。特に代数多様体の上の微分形式を積分して 得られる周期の研究がテーマの中心です。 代数方程式系の解集合として定義される 代数多様体は、古典的な数学において円錐曲線論や代数方程式論の関連で研究されて きましたが、今世紀の多様体論の発展の中でも豊富で重要な多様体の例を供給し 続けています。
現在では層とそのコホモロジー理論より代数多様体の不変量を定義することができ, 代数多様体全体をある種の不変量によって分類しようという試みがあります。
また、不変量を固定した時、その代数多様体の同型類全体が再び代数多様体になり、モジュライ空間と呼ばれますが、このモジュライ空間の詳しい記述が元の多様体の幾何に深く関係し豊かな構造を持っています。
現在の研究の中心テーマ−はミラー対称性や、可積分系と代数幾何学の関係についてです。
現在まで何が分かったか:
今後何をやろうとしているのか:
代数幾何学の簡単な歴史:
(アポロニウスからグロタンデックまで)
代数幾何学は、古くて新しい学問であります。この意味は長い歴史を持つにも関わらず、常に数学の他の分野の方法、技術を取り入れ、また物理学や、天文学、宇宙論と深い関係を持ちながらたびたび生まれ変わってきました。 アポロニウスの円錐曲線論(BC262南イタリア生まれ)以後、代数と幾何学は密接な関係を持ちませんでしたが、デカルトが座標幾何(1637年頃)を導入して以来、幾何学的な事実を座標と記号を使って表現する方法が確立し、図形の性質と、代数的な性質の厳密な意味での相互関係が明らかにされる様になると数学は大きく進展し、ニュートン(1642--1727)、ガウス(1777--1855),リーマン(1826--1866)らによってなされた、微分積分、力学、数論、微分幾何、複素関数論等の発達の基礎となりました。ガウス、アーベル(1802--1829)、ヤコビ(1804--1851)による楕円関数の研究を基礎としてワイエルストラス(1815--1897)やリーマンにより一変数代数関数論が展開されましたが、そこで表れたヤコビ多様体やリーマンーーロッホの定理、リーマン面のモジュラス問題等はその後の代数幾何学の発展に決定的な影響を与えました。 その後マックス ネーター(1844--1921) が平面代数曲線の双有理変換の理論やリーマンロッホの定理の幾何学的証明を行いました。 1890年台になって、イタリア学派が2変数の代数関数体の理論である代数曲面の代数幾何的な研究を始めました。彼等の方法は厳密とは言い難かったのですが多くの興味ある事実の発見を行いました。 一方ドイツでは、マックスネーターの娘、エミー ネーター(1882--1935)が抽象的な代数学特に可換環のイデアル理論を展開しました。この影響を受けたファンデルベルデンは抽象的イデアル論を応用した代数幾何学の基礎付けを行いました。この方向では、シェバレーとヴェイユが抽象的な体の上での代数幾何の基礎付けを行いました。特に、交点理論における重複度の概念を整備し合同ゼータ関数に関するリーマン予想の類似を定式化し、曲線とアーベル多様体の場合に証明する事に成功しました。また、シェバレーの仕事を発展させて、サミュエル(1920--)、永田雅宜(1927--)、セール(1926--)は局所環のイデアル論を用いた重複度の概念を完成させました。 ザリスキー(1899--1986)はクルルの一般付値論により双有理変換の理論を厳密化し基礎付けをしました。任意の既約な代数多様体は射影空間内の特異点を持たない代数多様体に双有理的に写されるという「特異点解消の問題」は、リーマン以来の難問でザリスキーによって3次元まで解かれたが、標数0の場合は広中平祐によって完全に解かれました(1964)。 一方、1950年代前半に、プリンストンの高等研究所に滞在した小平邦彦(1915--199 )はスペンサー(1912-- )と共にカルタンセミナーの「層の理論」を取り入れ、複素解析多様体の理論を構築していました。 ド=ラームの位相的ホモロジーと微分形式のコホモロジー理論の双対性やホッジの調和積分論の理論が発展していましたが、彼等はそれを用い、複素多様体の変型理論や、複素射影代数多様体とホッジ多様体の同値性、小平の消滅定理、代数曲面論の厳密化を行いました。 さて、セールは「層の理論」を代数幾何に導入する事の重要性を示す論文を書き、色々な幾何学的不変量が層のコホモロジーの不変量であることをしめしました。この方向をさらに押し進めた、グロタンデックは、代数多様体の概念をさらに一般化したスキームの概念を導入しました。スキームは空間の座標の環として一般にべき零元を許したものであり、べき零元の存在により解析学の逐次近似の方法の導入を可能にし、ザリスキーの主定理等の結果を含む膨大な結果を得ました。さらに、層の言葉と位相幾何学の結果をもちいて、複素多様体上のリーマン=ロッホ型定理が定式化され、ヒルツブルフにより証明されましたが、グロタンデックは抽象的な体上の代数多様体についても証明しました。グロタンデックは圏や関手の概念を導入する事により、代数多様体のモジュライの理論が定式化しました。 これ以後の発展(1960年代以降)も大変なものがありますが、またの機会としたいと思います。
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